協会設立20周年にあたる2013年に千葉県立中央博物館にて開催した展示「音風景の地平をさぐる」と関連企画についての記録を掲載します。

20周年展の総括(報告)

協会設立20周年に当たる昨年の秋(2013年10/5-12/1)、千葉県立中央博物館(第2企画展示室)を会場に開催した20周年展「音風景の地平をさぐる」について、実行委員会からの報告書をもとに常務理事会の議を経て、協会の見解を総括する作業が終了しましたので、その内容をここに報告します。本展の目的は、設立から今日に至る日本サウンドスケープ協会の歩みとその活動内容を紹介すると共に、現代社会において「サウンドスケープ」という考え方がもつ意味を広く発信することでした。

会長の西江雅之氏による挨拶文に続く会場構成と展示内容の概要は、以下の通り:

○20年の歩み(年表)とその関連資料
協会活動の歩みを、前史から現在に至るまで、そのときどきの社会状況と共にまとめた年表。関連資料の実物を、展示室中央に置いたショーケースで展示。

○協会の活動からみるサウンドスケープの世界
シンポジウムや例会等、協会のこれまでの活動事例を踏まえながら、サウンドスケープの考え方と社会への関わりを「音から地域を読み解く」「鐘を測り知る」「庭の佇まいを聴く」「自然に耳を澄ます」「聞こえない音を伝える」「故郷の豊かさを共有する」「音のデザインで空間を創る」「メディアが変える音世界」「音楽からサウンドアートへ」「録音とアーカイブ」「騒音から環境保全へ」、以上11のトピックスに分けて解説。

○身近な音風景への気づきを促すプロジェクション
身近な音風景を意識し、その世界想いをめぐらすためのヒントとなる言葉をスクリーンに投影。(会期中は基本的に毎週末、この壁面前のスペースを舞台として「サウンドスケープの教室」を開催。)

○震災プロジェクト
東日本大震災以降、協会内に立ち上げた「震災プロジェクト」の活動から、「定点観測」「(被災した)音風景100選訪問」「福島サウンドスケープ」の3つのプロジェクトをパネルとDVDを使って紹介。

本展の企画はもともと、2011年に入る頃から千葉県立中央博物館生態学・環境研究科長(現在)の大庭照代氏(本協会常務理事)により、博物館がその開催を予定していた企画展「音の風景−うつりゆく自然と環境を未来に伝える−」との同時開催案件の共催事業として提案されたもの。2012年度に準備会がとりまとめた展示コンテンツの概要を、2013年度総会で「20周年」を記念する今年度の主たる事業のひとつとして承認した後、委員長の船場ひさお氏(本協会常務理事)を含む7名の会員から成る「20周年展実行委員会」を通じ、その準備と実施に当たったものでした。

サウンドスケープをテーマとした団体としては、国際的にみても最も早い時期に設立された本協会の歩みを振り返りながら、サウンドスケープという考え方が現代社会にもつ意義を、協会活動の事例を踏まえて整理発信しながら「音風景の地平」を描き出した日本サウンドスケープ協会20周年展は、世界でも類をみない試みとなりました。

また、博物館からの情報によれば、企画展開催期間中の来館者数は37,913人とのこと。このうち正確には何名が「20周年展」の会場を訪れたかは不明ではありますが、通常の協会活動に比べるとはるかに多くのかたがたに、「サウンドスケープ」という用語とその考え方を発信したという意味でも、意義深い事業となりました。

こうしたなか「震災プロジェクト」展示のなかの「福島サウンドスケープ」に関する素材提供者だった永幡幸司氏(当時常務理事)が個人的に、パネル文章決定プロセスにおいて千葉県立中央博物館による検閲や言論統制があったという主張を繰り返し展開しています。これに関する問い合わせに対して、協会は次のような経緯を説明してきました。すなわち、千葉博(共催者)が、当初のパネル文章が千葉博における展示に相応しくないという理由で訂正を求めたため、実行委員会が永幡氏と誠実に協議し、文章を変更しました。このとき永幡氏は、変更した文章を了承し、協会ML上で実行委員会の労に謝意を表しています。以上の経緯に加え、永幡氏が当時常務理事という協会執行部の一員であったことに鑑みるとき、協会としてはその文章変更は検閲や言論統制に当たらないと考えています。(この件について、2014年7月理事長名で経緯の説明と協会の見解「協会設立20周年展示をめぐる問題について」を会員限定で送付しています。協会による当時の見解はこちら

今回の「20周年展」を通じて得たさまざまな体験は、これからの協会活動の在り方を考えるための貴重な素材となるはず。そのため、その内容を協会内外に向けて発表すると共に、今回見えてきた課題をさまざまな角度から整理・検討していきたいと考えているところです。




20周年展・会期の半分無事終了

日本サウンドスケープ協会20周年記念展「音風景の地平をさぐる」もオープンから一ヶ月が過ぎ、会期の折り返し地点を無事通過することができました。

11月2日,3日は、特別展示として、金沢工業大学土田研究室制作の、兼六園音風景ジオラマがお目見えしました。 この作品は、専用のタブレットの内臓カメラでジオラマ上に立てられた絵を撮すと、タブレットのディスプレイ上で、撮影した絵の部分が立体画像に置き換えられ、更に絵に描いた場所(建物や園内の滝、など)の説明が表され、実際にその場所で収録された音も再生されるシステムです。 10月5,6日も同じ作品が展示されましたが、前回の展示より、画像認識の確度、タブレット上で情報が表示されるまでのレスポンスが、明らかに改善されていました。

本展のパネルでも、サウンドスケープ研究の一例として、金沢の音風景が紹介されています。 普段、ただ漫然と聞いている音も、その音が「何の音か?何をしている音か?」や、「どこから来ている音か? どんな場所で出ている音か?」などを、ちょっと立ち止まって考えてみることで、その地域での暮らしの特徴を、より広く、より深く理解することができます。 更に、今聞こえている音と、昔聞こえていた(だろう)音を比較することで、その土地の環境の変化、自然環境だけでなく人々の暮らしぶりの変化への気づきを、深めることができます。本展で壁面一面を使って展示されている震災プロジェクトでは、地震災害による人々の暮らしの変化が、音の変化として現れる様子を紹介しています。実際に、被災地で収録した音の一部も、収録場所で撮影した写真と共に、DVDを使って紹介しています。 その他本展では、スクリーンに次々投影される言葉から、さまざまな音風景を、来場者の方に想像して頂く試みも、行われています。

「音風景の地平をさぐる」展は、共催の「音の風景」展と共に、12月1日(日)まで、千葉県立中央博物館にて開催中です。 毎週土日は、サウンドスケープの教室、秋季研究発表会、創立20周年記念シンポジウム等のイベントが開催されます。 リピーターの方向けに、1500円で一年間有効の年間パスポートも販売されていますので(企画展期間中の入場料は500円、その他の時は300円)、皆様是非、お立ち寄りください。

(2013年11月04日)


日本サウンドスケープ協会創立20周年記念シンポジウム

日本サウンドスケープ協会創立20周年記念シンポジウム「音風景の地平をさぐる」

趣旨: 複雑・多様化する現代社会には様々な価値観があふれ、私達はこれを読み解くことが難しくなっている。また現代社会では、自然と社会の結びつきが希薄化している。こうした現状を私達はどのように理解し、どのような未来を築いていけるのか。本シンポジウムでは、音風景(サウンドスケープ)から現代社会を考えてみたい。  第1部では、科学者とアーティストのコラボレーションによる映像作品の上映と関連する講演を行い、音風景を切り口にして現代社会の問題を紐解く。第2部では、私達人間を含む動物が、音を用いてどのように外界との関係を形成し、自らの生存を維持しているかを紹介する。第3部では、総合討論を行い、現代社会の問題に対してサウンドスケープ研究が果たす役割と可能性を考えたい。

開催日:2013年11月17日(日)
会 場:千葉県立中央博物館講堂(当日申込・先着200名)

第1部:9:30〜12:00
 パネルディスカッション「サウンドスケープの現代社会への切り結び方」
 パネリスト: ルーパート・コックス / アンガス・カーライル / 林直樹
 コーディネーター : 平松幸三
 ※冒頭に映像作品「気圧/Air Pressure」を上映

第2部:13:30〜15:00
 記念講演会「動物の音世界:自然界のサウンドスケープ」
 講演者:西江雅之(文化人類学者、日本サウンドスケープ協会会長)

第3部:15:00〜16:00
 全体討議

※映像作品「気圧/Air pressure」の紹介
(制作:ルーパート・コックス、アンガス・カーライル)
成田の土に生きる農家の日々の生活を音と映像を使って10分ほどにしあげた作品です。この作品は、イギリスのマンチェスターで2カ月半展覧され、5万人の人が訪れました。イギリス以外にも世界各地で展覧され、日本では、成田、沖縄などで展覧会が開かれました。

◆パネリストの紹介

ルーパート・コックス
マンチェスター大学グラナダ映像人類学センター講師。文化人類学者。映像人類学、音の人類学を専門とし、沖縄嘉手納基地をはじめとする航空機騒音の問題をめぐるポリティクスについて研究を進めてきた。その他、日本における禅芸術、複製文化についての研究などがある。

アンガス・カーライル
ロンドン芸術大学CRiSAP教授。サウンドアーティスト。音、環境、風景などをテーマに学術と芸術を結び付けるような活動を行ってきた。編者として、音と環境に関するエッセイ集Autumn Leaves (2007)など。CD作品に、京都・上桂の音風景を捉えたSome Memories of Bamboo (2009)、ルーパート氏との共作Air Pressure (CD+book, 2012)がある。

林直樹
1947年生。元成田市役所技監。環境行政、大気、水質、騒音、振動等の調査を担当する。成田国際空港の開港後は、航空機騒音測定局、高度コース測定局を設置、自動解析システムの構築に携わる。これにより現在空港周辺の騒音測定局103局、高度コース局7局が一元処理されている。また同時に航空機騒音の調査研究を行い、航空機騒音の評価方法の改定を国に提案した。

平松幸三
1946年生。京都大学名誉教授。2010年まで協会副会長、理事長。騒音防止に関する工学的研究、騒音の人間への影響に関する研究を経て、1980年代にサウンドスケープ研究を始める。京都市内東山、山鉾町、滋賀県内、沖縄、タイ、ラオスなどでフィールド調査を実施。現在、日本学術振興会ロンドンセンター長。

西江雅之
1937年東京生まれ。専門は言語学・文化人類学。早稲田大学政経学部卒、同大学文学部英文科卒、同大学大学院芸術学修士課程修了。フルブライト奨学生としてカリフォルニア大学(U.C.L.A)大学院で学ぶ。東京外国語大学、早稲田大学、東京芸術大学などで教壇にたつ。23歳で日本初のスワヒリ語の文法を発表。アフリカ諸語、ビジン・クレオール語の先駆的研究をなした。


日本サウンドスケープ協会20周年記念展「音風景の地平をさぐる」

創立20周年を迎えた日本サウンドスケープ協会。この20年間で私たちを取り巻く音風景=サウンドスケープは様々に変化してきました。バブル崩壊からミレニアムを経て、大きな震災も体験したこの20年間を、サウンドスケープ協会の多岐に渡る活動とともに振り返りながら、今、なぜ音風景なのか、私達が自然や環境、地域や時代に耳を澄ますことから見えてくる新たな可能性を一緒に考えてみませんか。

*本展は、千葉県立中央博物館との共催展として企画され、企画展「音の風景 -うつりゆく自然と環境を未来に伝える-」の一環として開催いたします。

会 期:2015年10月5日(土)~12月1日(日)
開館時間:9時~16時30分(入館は16時まで)
休館日:月曜日(月曜日が休日の場合は開館し,次の平日が休館)
会 場:千葉県立中央博物館第2企画展示室
    (千葉市中央区青葉町955-2 電話043-265-3111)
入場料:一般500円、高校・大学生250円、中学生以下・65歳以上は無料


<展示の見どころ>

1)サウンドスケープ年表と活動トピックス
20年間のサウンドスケープ協会の活動を、社会状況の変化と共に年表として表現します。 また、「自然の響きをきく」「地域」「語り・伝承」「祭り」「サウンドアーカイブ」「鐘の音」「市民活動」「録音」「庭園の音風景」「サウンド・アート/サウンド・インスタレーション」「音環境デザイン」「メディアにおける音」「社会・環境問題・騒音」などをキーワードとしながら、協会の様々な活動トピックスを紹介します。

2)サウンドスケープを想像するプロジェクション
展示室奥のスクリーンには、サウンドスケープに関する様々な想いをめぐらすためのヒントとなる言葉が映し出されます。 ※「サウンドスケープの教室」開催中はプロジェクションはお休みします。

3)サウンドスケープ・ショーケース
サウンドスケープ協会に関連する書籍や資料を、一堂に集めて紹介します。

4)震災プロジェクトの紹介
東日本大震災以降、協会が特に力を入れて活動してきた「震災プロジェクト」について、詳しく紹介します。


<展示会場でのイベント>

1) サウンドスケープの教室
世界は様々な音で溢れています。同じように、音の世界への入り方も様々です。音楽や音響、騒音といった直接「音」に関わる分野から入ることももちろんありますし、教育の中で音をどう取り扱うか、生きものの生態を音から見ていくとどうなるか、庭園の中で音はどう響いているか、といった切り口から入っていくこともできます。「サウンドスケープの教室」では、こうした多種多様な「音の世界への入り方」をトークや実演を通して紹介します。 詳しくはこちらをご参照願います。

2)ワークショップ「森の音さんぽ」
講師:岩田茉莉江(音風景研究家)、笹島裕樹(サウンドアーティスト)
日時:10月6日(日)14:15~16:15 集合場所:生態園出入り口
人数:当日申込10名 対象:どなたでも(小学3年生以下は保護者同伴)
音を聴きながら、森や草地などの生態園をめぐります。自分の耳を研ぎ澄まし、時折、マイクを通して小さな音世界を聴いてみたり、音のなるものをひろってみたり・・・どんな秋の音風景に出会えるでしょう? *ワークショップが開催される10月6日に限り、展示会場内にインスタレーション「みみ と み」が設置されます。


<関連行事>

1)日本サウンドスケープ協会創立20周年記念シンポジウム「音風景の地平をさぐる」
開催日:11月17日(日)
会 場:講堂(当日申込・先着200名)

第1部:9:30〜12:00
 パネルディスカッション「サウンドスケープの 現代社会への切り結び方」
 パネリスト: Rupert Cox / Angus Carlyle / 林直樹
 コーディネーター : 平松幸三
 ※冒頭に映像作品「気圧/Air Pressure」を上映

第2部:13:30〜15:00
 記念講演会「動物の音世界:自然界のサウンドスケープ」
 講演者:西江雅之氏(文化人類学者 日本サウンドスケープ協会会長)

第3部:15:00〜16:00
 全体討議

2)企画展記念研究発表会「音の世界はこんなに面白い!」
  -最近のサウンドスケープ研究の現場から-
  (日本サウンドスケープ協会秋季研究発表会)
  開催日:11月16日(土)
  時 間:9:30〜16:00
  会 場:講堂(当日申込・先着200名)


20周年記念展フライヤー表面(PDF/963KB)
20周年記念展フライヤー裏面(PDF/1.2MB)
サウンドスケープの教室タイムテーブル(PDF/295KB)
2013年度秋季研究発表会プログラム(PDF/475KB)
2013年度秋季研究発表会論文集(PDF/4.3MB)



 

協会の活動INDEX
○ 協会の活動概要
○ 総会・シンポジウム
○ 研究発表会
○ 例会
○ ワーキング・グループの活動
○ ワーキング・グループの紹介
○ 震災プロジェクト
● 20周年展
〇 提言・プレスリリース
○ 後援事業

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日本サウンドスケープ協会