サウンドスケープとは、単なる音(サウンド)のことではありません。それは、気配や雰囲気、喧騒や静寂、さらには記憶の音・想像上の音までをも含みます。サウンドスケープという考え方は、感覚刺激としての音の重要性を踏まえつつも、音の世界の背後に広がる社会や文化の在り方を問題にします。また、その基本は「誰にとって、どこで、いつ成立する環境か」ということにあります。
音は時間の流れのなかで、立ち現れては消えていきます。音の世界は時間の流れのなかにあります。その意味で、サウンドスケープは「過去・現在・未来の音」全てを扱います。さらに「自然界の音/人為の音」「録音できる音/できない音」といった従来の境界線を超えて、音の世界を切り口として環境全体の在り方に関心をもつ人々が集う場、それが日本サウンドスケープ協会です。
日本に導入されたサウンドスケープ概念は、「残したい日本の音風景事業」(1996)をはじめ、各種の実践事例と関連する論考を生み出してきました。それらは、多様な聴取能力とその技術の回復・育成のための「サウンド・エデュケーション」や、現代社会の諸領域における聴取文化の回復とその推進行為としての「サウンドスケープ・デザイン」の実践事例として位置づけることができ、そこには欧米諸国には見られない広がりがあります。私たちは、カナダに発したサウンドスケープ概念を、日本文化との高い親和性をもって展開しているのです。
(文責:鳥越けい子)
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